巻上機は機械工学を学ぶ上で多くの要素がある為、重要視されています。
巻上機を扱う予定が無くても、多くの学びがあるはずです。
このページではワイヤーロープについて解説します。
参考図書として、「手巻きウインチの設計」を使用しています。
目次
ワイヤーロープとは
巻上機を語るうえで外せないのが”ワイヤーロープ”です。
ワイヤーロープにはたくさん種類がありますが、ここでは巻上機で使用するものに絞って紹介します。
ワイヤーの種類
IWRC(Independent Wire Rope Core)で、鋼心入りのワイヤーが主に使われます。
IWRCの中でも特に、WS(ウォーリントンシール型)とFi(フィラー型)の”平行より”が一般的です。
具体的には6×Fi(25)「フィラー型25本線6より」や6×WS(36)「ウォーリントンシール型36本線6より」などがあります。
ガイドや引き回し用のワイヤーはIWRCフィラー型を主に使用します。強度がそこそこあり、耐摩耗性など使用範囲のバランスが良いからです。
Wsは耐摩耗性に優れていて曲げ耐性に優れています。価格の安いFiとの使い分けをしましょう。
クレーンなどではモノロープを使用します。非自転性のワイヤーであるため高価です。
エレベータなどでは、電纜(でんらん)ウォーリントンシール型を使用します。
ワイヤーロープのよりかた、よりの方向
ワイヤーロープには、Zより(左より)とSより(右より)の二種類あります。
よりの方向は普通よりとラングよりの2種類ですが、揚重など一般的な用途では普通よりが使われます。
ラングよりは索道(ロープウェイ等)で使われます。
ワイヤーロープを買うときに何も指定しなければZよりです。(玉掛ロープはZより)
ZよりとSよりを使い分けは、揚重時に回転させたくない物を4点で吊るときに、対称にZよりとSよりのワイヤーを使用するようにします。ワイヤーには自転性があるので全て同じよりかただと回転するためです。
ワイヤーロープのドラムへの巻き込み方向
平ドラムの場合、Zは左から右へ。Sは右から左へ。(巻上機の下側からワイヤーを出す場合は逆になる)
リーバスドラムと溝付きドラムは例外です。
巻上機ドラムが双胴の時は端から巻くより方を選択しなければなりません。右側はSで左側はZ。(下巻きの場合は逆)
ワイヤー使用荷重の2%~4%の力で引張りながら巻く(特に一段目は隙間なく巻くこと)のが良いとされています。
ワイヤーロープの損傷
労働安全衛生規則第174条で使用してはならないワイヤーロープの基準が示されています。
- 継目のあるもの
- ワイヤーロープ1より間で素線数の10%以上が切れている場合
- 直径の減少が、公称径の7%を超えるもの
- キンクしたもの
- 著しい型崩れ、腐食したもの
1よりの10%とは、6ストランドなら、見た目6本分が1よりです。(詳しくは画像検索してみてください)
腐食は、パーツクリーナーで洗って表面が錆びているのか確認する事。ただ汚れているだけの時もあるので。
内部が錆びる場合もあり、専門業者のテスターで知ることができます。
テスター使用時、不明波形が1~2本程度なら気にしなくてよいですが、何回測っても不明波形が出るときは内部腐食の疑いが強いです。
破断荷重・安全率の計算方法
巻上機の設計時には、ワイヤーロープの直径を破断荷重から決定します。
破断荷重は以下の式で決めます。
Q(破断荷重) = W(巻上荷重) × S(安全率) [kN]
巻上げ用では安全率は6倍を取ります。(人が乗る設備は基本的に10倍です。)
一般に使用荷重は、荷重のほかに衝撃や過荷重を見込んで、破断荷重の15%が良いとされています。
例をあげると
W=150kN ,S=6 の場合
W × S で 900 kN以上の破断荷重を持つワイヤーロープとなりますが、安全率6ギリギリを狙わない方が良いです。
実際には15%を見込んで、900kN×1.15で 1035kN以上の破断荷重を満たすワイヤーロープを選定するのが良いでしょう。
まとめ
Part1では巻上機の前段として、ワイヤーロープについて巻上機で使用するものに特化して説明しました。
ワイヤーロープについて調べても玉掛けが多く、情報が溢れがちですよね。
現場監督も機械屋さんもワイヤーの知識は必須ですから、巻上機を知らなくてもワイヤーだけは勉強しておきたいものです。
巻上機ワイヤーの長さ選定方法はこちら。